年別アーカイブ:2019年
『諸神本懐集』9 園城寺(三井寺)の新羅明神
初めての方は『諸神本懐集』1からどうぞ 『諸神本懐集』8のつづき 園城寺(三井寺)の新羅明神 かの新羅の明神ときこゆるは、園城寺の鎮守なり。 園城寺(おんじょうじ・滋賀県大津市)は天台寺門宗の総本山で御本尊は弥勒菩薩。 通称は、三井寺(みいでら)で近江八景の「三井の晩鐘」で有名。 観音堂は西国三十三所観音霊場の第十四番札所であり、如意輪観音が祀られています。 天台寺門宗の宗祖・智証大師・円珍(814-891)が感得した黄不動は日本三不動の一尊。 明治に来日し、欧米に日本美術を紹介したアーネスト・フランシス ...
『諸神本懐集』8 諸神の本懐をあかして仏道にいり、念仏を勤修すべきおもむきをしらしむ
初めての方は『諸神本懐集』1からどうぞ 『諸神本懐集』7のつづき 諸神の本懐をあかして仏道にいり、念仏を勤修すべきおもむきをしらしむ 第三に、諸神の本懐をあかして仏道にいり、念仏を勤修すべきおもむきをしらしむといふは、一切の神明、ほかには仏法に違するすがたをしめし、うちには仏道をすすむるをもてこころざしとす。 これすなはち和光同塵の本意をたづぬるに、しかしながら八相成道の来縁をむすばんがためなるゆへなり。 このゆへに、ふかく生死のけがれをいむは、生死の輪廻をいとふいましめなり。つねにあゆみをはこばしむるは ...
『諸神本懐集』7 実社の邪神をあかして、承事のおもひをやむべきむねをすすむ
初めての方は『諸神本懐集』1からどうぞ 『諸神本懐集』6のつづき 実社の邪神をあかして、承事のおもひをやむべきむねをすすむ 第二に、実社の邪神をあかして、承事(しょうじ)のおもひをやむべきむねをすすむといふは、生霊・死霊等の神なり。 これは如来の垂迹にもあらず。 もしは人類(にんるい)にてもあれ、もしは畜類(ちくるい)にてもあれ、たたりをなし、なやますことあれば、これをなだめんがために神とあがめたるたびひあり。 文集のなかに、ひとつのためしあり。唐の江南(かうなむ)といふところに、黒潭(こくたん)といふふ ...
『諸神本懐集』6 三嶋大社・箱根神社・八幡宮・日吉大社・八坂神社・稲荷大社・白山比咩神社・熱田神宮
初めての方は『諸神本懐集』1からどうぞ 『諸神本懐集』5のつづき 三嶋大社・箱根神社 二所三嶋(にしょみしま)の大明神といふは、大箱根は三所権現なり。 二所は、伊豆山と箱根。 三嶋は、伊豆国一宮・三嶋大社(静岡県三島市)。 大箱根は、箱根神社(神奈川県足柄下郡箱根町)。 法体は三世覚母の文殊師利、俗体は当来道師の弥勒慈尊、女体は施無畏者観音菩薩なり。 当来=未来。 弥勒は、釈尊入滅後56憶7千万年後に下生される未来仏です。 三嶋の大明神は十二願王医王善逝なり。 十二願=薬師如来の十二の誓願。 医王善逝=薬 ...
『諸神本懐集』5 熊野権現と本地仏
初めての方は『諸神本懐集』1からどうぞ 『諸神本懐集』4のつづき 熊野権現が熊野に鎮座するまで 熊野の権現といふは、もとは西天、摩訶陀国の大王、慈悲大賢王なり。 “西天”とは西天竺(インド西部)のことですが、現在のインド地図で見ると摩訶陀国(マガダ国)の位置はインド東部ですが、通常、摩訶陀国は中天(インド中部)とされます。 これは現在のバングラディッシュまでがインドとされていたからでしょう。 しかるに本国をうらみたまふことありて、崇神天皇即位元年あき八月に、はるかに西天よりいつつの剣をひんがしになげて、「 ...
『諸神本懐集』4 タケミカヅチと鹿島神宮・春日大社・住吉大社・大原野神社・吉田神社
初めての方は『諸神本懐集』1からどうぞ 『諸神本懐集』3のつづき 鹿島神宮 鹿嶋の大明神は、本地十一面観音なり。 和光利物のかげあまねく、一天をてらし、利生済度のめぐみ、とおく四界にかうぶらしめたり。 このゆへに、たのみをかくるひとは、現当の悉地を成じ、こころをいたすともがらは、心中の所願をみつ。 奥の御前は、本地不空羂索なり。 左右の八龍神は、不動毘沙門なり。利生おのおのたのみあり。 済度みなむなしからず。 “鹿嶋の大明神”とは、茨城県鹿島町の鹿島神宮の祭神。 南北朝時代中期に成立した『神道集』の巻三に ...
『諸神本懐集』3 「国生み」と「岩戸隠れ」の異説
初めての方は『諸神本懐集』1からどうぞ 『諸神本懐集』2のつづき イザナギ=鹿島大明神・イザナミ=香取大明神 そもそも日本わが朝は、天神七代、地神五代、人王百代なり。 そのうち、天神の第七代おば、伊弉諾(イザナギ)・伊弉冉(イザナミ)とまふしき。 伊弉諾の尊はおとこがみなり。いまの鹿嶋の大明神なり。 伊弉冉の尊はきさきがみなり。いまの香取の大明神なり。 鹿島大明神は武甕槌神(タケミカヅチ)、香取神宮は経津主神(フツヌシ)なのですが、ここでは鹿島大明神を伊弉諾尊(イザナギ)、香取神宮は伊弉冉尊(イザナミ)と ...
『諸神本懐集』2 権社の霊神をあかして、本地の利生をたうとぶべきこと
『諸神本懐集』1のつづき 第一には、権社の霊神をあかして、本地の利生をたうとぶべきこと 第一に、権社の霊神をあかして、本地の利生をたうとぶべきことをおしふといふは、和光同塵は結縁のはじめ、八相成道は利物のおはりなり。 これすなはち、権社といふは、往古の如来、深位の菩薩、衆生を利益せんがために、かりに神明のかたちを現じたまへるなり。 本地月あきらかにして、ひかりを無垢地のそらにあらはし、玄関くもはれて、こころを性真如のみやこにすます。 しかるあひだ、同躰の慈悲しばらくもやむことなく、髄類の利益ときとしてわ ...
『諸神本懐集』1 浄土真宗的な立場から記された神仏習合論
『諸神本懐集』の著者・存覚について 『諸神本懐集』は、浄土真宗の開祖である親鸞の玄孫(やしゃご)・存覚 (ぞんかく 1290-1373) が浄土真宗的立場から記した神仏習合論の代表的文献です。 「真宗的立場」としたのは、存覚の立場が「真宗の立場」とは異なるからです。 親鸞が『顕浄土真実教行証文類(教行信証)』の顕浄土方便化身土文類において、 “仏に帰依せば、つひにまたその余のもろもろの天神に帰依せざれ” という一文を『涅槃経』から引用し、神祇不拝を説いているとおり、浄土真宗は弥陀専念神祇不拝(阿弥陀仏のみ ...
※加筆 牛頭観世音 牛頭天王でも、馬頭観音でもなく、牛頭観音
埼玉県川越市に牛頭観音さまがおられます。 ポストの横の小さな石碑が牛頭観音さまです。 “牛頭観世音”とあります こんな小さな牛頭観音様ですが、Google mapに掲載されてます。 Googleすご過ぎ! 住所はこちら → 埼玉県川越市大字下老袋102 牛頭天王や馬頭観音は数多いですが、牛頭観音は珍しいです。 残念ながら、川越の牛頭観音は文字だけでした。 牛頭天王は行厄神としてのイメージが強いためか、牛供養には牛頭天王ではなく、牛頭観音がまつられることがあったようです。 石碑の ...
釈尊入滅の異説。牛頭天王にとり憑かれた釈迦如来
釈迦如来が入滅されるときの様相は ブッダ最後の旅―大パリニッバーナ経 (岩波文庫)に詳しく記されています。 ところが、大パリニッバーナ経 には伝えられていないことが、『牛頭天王島渡り』に伝えられています。 『牛頭天王島渡り』は、奥三河(旧三河国{現在の愛知県東半部}の北東部の山間部)に伝承される祭文です。 『牛頭天王島渡り』によれば、釈迦如来の入滅は、祇園精舎の守護神であるはずの牛頭天王がとり憑いたことによって成されたというのです。 しかも、ここでは、牛頭天王ご自身が“我は是(これ)日本行疫 ...
『大和葛城宝山記』解説3 一言主神 役行者 ワカタケル 役優婆塞 神変大菩薩
はじめての方は『大和葛城宝山記』解説1からどうぞ 『大和葛城宝山記』解説2のつづき 【読み下し文】一言主神〈飛行夜叉神の所変、孔雀王と号するは是れ也。 一乗無二の法を守護するの故に、一言主尊と名づく。故に当処を一乗の峯と名づくる也。 惟(ただ)是れ天神の降り坐します金剛坐の宝相なり。 住心品の国、仏法人法即一無弐平等の国、一切諸法、皆了、了覚、了知、正覚にして、自証三菩提の国なり。 之に因りて安国と名づけ、亦大和国と名づくる也。 我が国、昔海たる時、天、当峯に降りて、始めて国土を成じて、大日本国と名づく。 ...
『大和葛城宝山記』解説2 読み下し文 タカミムスビ イザナギ イザナミ アマテラス ニニギ 一言主神
『大和葛城宝山記』解説1 のつづき 【読み下し文】極天の祖神 高皇産霊皇帝〈此れを上帝と名づく。 是の高皇産霊尊は、極天の祖皇帝に坐します也。 故に皇王の祖師也〉 『日本書紀』では“高皇産霊尊(タカミムスビのみこと)、高木神(タカギノカミ)”とも表記されます。 『古事記』では“高御産巣日神(タカミムスビのかみ)”です。 高木神という別名の通り、巨木を神聖視し、そこに神を感得したことから名づけられたと考えられています。 「産霊(むすひ)」は自然界における生産力や生成力です。 高皇産霊尊(タカミムスビ)の娘・ ...
『大和葛城宝山記』解説1 読み下し文 行基菩薩 ビシュヌ
大和葛城宝山記(やまとかつらぎほうざんき)は、両部神道を代表する書の一つであり、大和葛宝山記、大和葛木宝山記、葛城宝山記、神祇宝山記とも呼ばれます。 奥書に“天平十七年辛酉四月一日”、とありますが、一般には鎌倉時代後期に成立したと考えられています。 大和葛城宝山記 行基菩薩撰 “大和(やまと)”は狭義には奈良、広義には日本を指します。 「葛城宝山」とは、奈良と大阪の県境に位置する葛城山(かつらぎさん)です。 撰者の行基菩薩(668-749)は、聖武天皇(701-756)・良弁僧正(689-774)・菩 ...
羊妙見菩薩2 羊太夫 行基菩薩
羊妙見菩薩1 平将門と平良文を助けた羊妙見菩薩のつづき 謀反と星神 平将門と平良文の連合軍を救った羊妙見菩薩が出現した“上野国(こうずけのくに)群馬(くるま)郡”という場所は、現在の群馬県高崎市にあたり、そこに建立された“七星山息災寺”は、現在の三鈷山妙見寺(天台宗)です。 妙見菩薩は北極星ですが、日本において星神は謀反、反乱を起こす側である例が多くみられます。 『日本書紀』巻第二 神代下 第九段本文に 【読み下し文】二神(ふたはしらのかみ)、遂(つい)に邪神(あしきかみ)及び草木石(くさきのいわ)の類を ...
羊妙見菩薩1 平将門と平良文を助けた羊妙見菩薩
平将門の首塚 千葉氏に関する文書である『千学集抄(せんがくしゅうしょう)』に、“羊妙見菩薩”という珍しい尊名が登場します。 この『羊妙見菩薩』を調べていくと、興味深い事柄がずるずると引きずり出てきます。 妙見菩薩は、千葉氏の守護神です。 千葉周作(1793-1856)が創始した剣術・薙刀術の流派である北辰一刀流(ほくしんいっとうりゅう)の「北辰」も北辰妙見菩薩からです。 ちなみに、北辰一刀流が現在の剣道に直結した流派です。 『千学集抄』にも妙見菩薩の名が多く登場します。 『千学集抄』の成立年代は天正年間( ...
『大和葛城宝山記』読み下し文
大和葛城宝山記 行基菩薩撰 神祇 蓋し聞く、天地の成意、水気変じて天地と為ると。十方の風至りて相対し、相触れて能く大水を持(たも)つ。水上に神聖(かみ)化生して、千の頭二千の手足有り。常住慈悲神王と名づけて、違細と為す。是の人神の臍の中に、千葉金色の妙宝蓮花を出す。其の光、大いに明らかにして、万月の倶に照らすが如し。花の中に人神有りて結跏趺坐す。此の人神、復(また)無量の光明有り。名づけて梵天王と曰ふ。此の梵天王の心より、八子を生ず。八子、天地人民を生ずる也。此を名づけて天神と曰ふ。 亦天帝の祖神と称 ...
『二所大神宮麗気記』 読み下し文・現代語訳・解説 まとめ
「二所大神宮麗気記」は『麗気記』十八巻の冒頭です。 神変大菩薩(役小角)の説 【読み下し文】二所大神宮麗気記 蓋し以れば、去んじ白鳳年中に、金剛宝山に攀上りて、宝喜蔵王如来の三世常恒の説を聞けば 【現代語訳】二所大神宮麗気記 さて思いめぐらすに、去る白鳳年中に金剛宝山によじ登り、宝喜蔵王如来の三世常恒の説を聞いた 役小角(えんのおづの・634-701)は修験道の曩祖(のうそ)であり、役行者(えんのぎょうじゃ)、役優婆塞(えんのうばそく)とも呼ばれ、諡号は神変大菩薩(じんぺんだいぼさつ)です。 ...
『先代旧事本紀』巻第三・天神本紀「饒速日尊(ニギハヤヒ)誕生から神去まで」<現代語訳・読み下し文・解説>まとめ
『先代旧事本紀』巻第三は、記紀(『日本書紀』と『古事記』)が伝えていない饒速日尊(ニギハヤヒ)の降臨が記された巻です。 この記事では、『先代旧事本紀』巻第三の冒頭から饒速日尊(ニギハヤヒ)が埋葬されるまでを記載しています。 この記事の読み下し文は 先代旧事本紀・訓註に由りました。 『先代旧事本紀』巻第三 天神本紀1 【現代語訳】先代旧事本紀 巻第三 天神本紀(あまつかみのもとつふみ) 忍穂耳尊(オシホミミのみこと)に、天照太神(アマテラスおおみかみ)は仰せられた。 「どこまでも葦原が続く永遠 ...
『先代旧事本紀』概要
『先代旧事本紀』は「せんだいくじほんぎ」、または「さきのよのふることのもとつふみ」と読み、「旧事本紀(くじほんぎ)」や「旧事紀(くじき)」とも呼ばれます。 全十巻から成り、天地開闢から推古天皇までの史書です。 『先代旧事本紀』の「序」によれば、本書は聖徳太子(574-622)と蘇我馬子(?-626)が編述したと伝えられます。 平安時代より長らく、『日本書紀』『古事記』と並ぶ三大史書とされてきました。 ところが、延宝七年(1679)に、『先代旧事本紀大成経(以下、『大成経』)』が発見されました。 この『大成 ...