ネパール ポカラからカトマンドゥへ

Nepal

 眼下には、雪をかぶったヒマラヤの山々がそびえていた。

 雨期のポカラは灰色の雲に覆われ、ヒマラヤの山々が姿を見せてくれることはなかったが、雲の上に行けば、雨期だろうと関係なかった。

 太古の昔から雪を被り続けている山々が、犯しがたい崇高さをもって、そこにそびえたっていた。

 峻厳な山岳に降り積もった粉雪が、風に吹き飛ばされていくのが見える。

 圧倒的な威容。

 厳しいまでの美しさ。

 私は、思わず手を合わせていた。

 この神々しい山々が、どの神仏の垂迹であるかは、問題にならない。

 山々は、絶対的真理の一つの現れとして、そこに在った。

 人間の力を遙かに超えたものとして、そこに在った。

 偉大な存在に出会うことができたならば、ちっぽけなことから生じた自尊心など惜しげもなく投げ捨て、心からひれ伏すべきだ。

 普通の人間が一生の内に得られるものなど、たかが知れている。

 相対的な努力をいくら積み重ねてみても、絶対に至ることはできない。

 たとえ人の寿命が二百年に伸びたとしても、あの山々には遠く及ばないだろう。

 突然、目の前のナプキンが吹き飛んだ。それと同時に耳がおかしくなった。

 紙くずが前方から、強い風と共にびゅんびゅん飛んでくる。

 客席が二列しかない小さなプロペラ機の操縦席は、私の席からもよく見えた。

 この高度にも関わらず、操縦士はまぶしそうに顔をしかめ、窓を開け新聞紙を挟もうとしていた。

 その窓からすごい風が、機内に吹き込んできているのだ。

 新聞はばたばたと暴れ、思うように挟めなかった。

 飛行機は、神々の世界から、埃っぽい下界へと下降していく。

 十八時間かけて行ったポカラから、三十分でカトマンドゥに帰ってきた。

 小さなプロペラ機から降りていくほとんどの人たちが耳を押さえていた。

 皆、気圧の変化で耳がおかしくなってしまったのだった。

 カトマンドゥの街は、喧噪であふれていた。

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