India 遊行記

インド タージマハールにて

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 静寂の暗闇の中、月明かりを浴びて、淡く白光を放つ巨大な墓。

 タージマハールは霧に包まれ、幻想的な情景を構成していた。

 写真では何度も目にしていたが、実物は写真とは違う。

 目の前の白い墓は、写真には写らない不気味な静寂に満ちていた。

 王は死んだ后のために、幻想的なまでの美しさを持つこの墓を建立した。

 そして、二度とこれと同じものが建てられないように、建築に関わったすべての職人の腕を切り落としてしまったのだという。

 心ある者は、慈愛と愛着をはき違えてはいけない。

 愛着は、所有欲や独占欲、その他、多くの煩悩の裏返しである。

 愛着は人を不幸にする。

 過ぎ去った過去を追ってはならない。

 去りゆく者を追ってはならない。

 溶けて崩れ落ちそうな太陽が、地平線上に現れた。

 どろどろとした赤い塊が、白い墓にエネルギーを放射する。

 霧はゆっくりと光に溶け、光が影の表情を、墓石にくっきりと浮かび上がらせた。

 私は、墓に吸い込まれていくように、ゆっくりと歩き始める。

 白い墓は一歩進むごとに、表情を変えていく。

 たった一人の女性のために建てられた白い墓は、赤い光の力を帯びて狂気にも似た不気味な静寂と力に満ちていた。

 

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