カルカッタの博物館は、死と退廃に満ちていた。
大量の虫の標本は、劣悪な保存状態のため変色し、薄い羽が破れ落ちたりしている。標本と言うよりも、ガラスケースに虫の死骸を並べたといったほうがふさわしい。
インドでは、日本よりも命が格段に軽く扱われているが、それでもこれだけ無駄な虐殺は珍しい。
私は標本が陳列された部屋から出た。
恐竜の化石がある。近くで見ると骨にはびっしりと落書きがほどこされていた。
古くなった蛍光灯が、ちかちかと点滅している。
すべてが汚らしく、埃をかぶっていた。
知識が、人を豊かにすることなのではない。
知識が、世界に調和をもたらすのではない。
知識を通さず、まったくの無媒介に直接、世界を認識する。
その時、世界は完全に調和し、あなたは本当の豊かさを知る。