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『中臣祓訓解』4のつづき
上件の明神等は、冥道の諸神なり。
一切衆生の為に、一子の慈悲を施す。
諸尊の願海を以て、生死の穢泥を洗ふ。
阿字本性の故に、長寿延命なり。
本記に云はく、「騰源司命、西源魂召を饗し、紫広七座の祓を賛す。明らかに三十年を転ず。祓は此れ不死の薬なり。故に能く万病を治す。然れば則ち、決定の業と雖も、能く之を転ず。若し亦悪道に堕すと雖も、必ず苦に代る。永く三悪道を離れて、即ち成仏すること疑無し」と云々。
惟みれば、吾が国は神国なり。
神道の初め、天津祝詞(いはことば)を呈(あら)はし、天孫は国主なり。
諸の神区(まちまち)に賞罰験威を施して、肆に君臣崇重して幣帛を奉じ、黎下導行して斎祭を致す。
茲れに因りて龍図の運長く、鳳歴の徳遥かに、海内太平に、民間殷富せり。
為(す)る所は伊弉那諾伊弉那美尊、真言密蔵の本源、天神地祇の父母なり。
一切如来は浄妙法身の躰、三世諸仏は大悲法門の主なり。
爰に未来の衆生等、懺悔為(な)す所は少く、所化する者は甚だ多し。
方便の巧智を廻して難度の衆生を渡す。
利益感応の道、内外相応の徳、不思議甚深なり。
是れ則ち、一乗無二の法、義益最も幽深なり。
自地兼ねて利済す。
誰か仏神の教を忘れむや。
抑(そもそ)も両部の大教は、諸仏の秘蔵なり。
諸仏の智恵は、諸神の本源なり。
妙覚の心智、豈に繁論し難しや。
法徳の神力、説き尽すべからず。
時に弘仁十三年仲夏二十五日、沙門遍照金剛、文をもて伝ふ。
某(それがし)聞く、智恵の源極を、強ひて仏陀と名づく。
軌持(きぢ)の妙句を、仮に達磨と曰ふ。
智能く円(まど)かなるが故に、為(せ)ざる所無し。
法能く明かなるが故に、自他兼済す。
五限常に鑒(かんが)みて、溺子(できし)を津渉(しんせふ)し、六道自由にして、樊籠を抜拯(ばっしょう)す。
恒(つね)に魔醯(まけい)を憑念(ひょうねん)して之に帰し、之に接する所以に因る。
不宰の功、何ぞ敢へて之を比喩せん。
弟子去(い)にし延暦二十三年に、天命を大唐に銜(ふ)して〈ふくむる〉遠く鯨(げい)海を渉る。
風波天に沃(そそ)く。
人力何ぞ計らん。
自ら思へらく、冥護に因らざるときは寧(いづくん)ぞ遂に皇美の節を遂(と)ぐることを得んや。
即ち祈願す。
一百八十七所の天神地祇等の奉為(おほんため)に、金剛般若経を写し奉ること、神毎に一巻、鐘谷感応して、使乎(しこ)の美を果すことを得たり。
語寐(ごび)に服思して食味を甘くせず。然りと雖も、公私擾擾(ぜうぜう)として、遅廷跼蹐(きょくせき)す。謹みて弘仁四年十月二十五日を以て、奉写供養す。
並びに以て転諷すること、巻毎に一返。
伏して願はくは、此の妙薬を以て彼の神威を崇め、金剛の恵日、愛河を銷竭(せうかち)し、実相の智杵、邪山の摧砕(さいさい)す。
自他平等に巧に妄執(まうじふ)を割(さ)き、怨親斉(ひと)しく沐(ぼく)して、禍を転じて福と為(し)、三有六途(さんうろくづ)、皆悉く四恩なり、蚑行蠕動(きかうぜんどう)し、何ぞ仏性無からむ。
返りて平等の法雨を灑(そそ)き、早く妙覚の根果を熟せん。
『中臣祓訓解』6につづく