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『諸神本懐集』3のつづき
鹿島神宮
鹿嶋の大明神は、本地十一面観音なり。
和光利物のかげあまねく、一天をてらし、利生済度のめぐみ、とおく四界にかうぶらしめたり。
このゆへに、たのみをかくるひとは、現当の悉地を成じ、こころをいたすともがらは、心中の所願をみつ。
奥の御前は、本地不空羂索なり。
左右の八龍神は、不動毘沙門なり。利生おのおのたのみあり。
済度みなむなしからず。
“鹿嶋の大明神”とは、茨城県鹿島町の鹿島神宮の祭神。
南北朝時代中期に成立した『神道集』の巻三に、“鹿嶋大明神者、天照大神第四子也……御本地十一面観音也”とあります。
“奥の御前”とは、武甕槌神(タケミカヅチ)の荒魂を祀る鹿島神宮の摂社・奥宮のこと。
“八龍神”は、鹿島神宮の摂社。『神道集』巻五に「八龍神、本地不動明王」
春日大社
この明神は、奈良の京にしては春日(かすが)の大明神と現じ、難波(なんば)の京にしては住吉(すみよし)の大明神とあらはれ、たいらの京にしては、あるひは大原野の大明神とあがめられ、あるひは吉田の大明神としめしたまふ。
“春日の大明神”は、奈良県奈良市の春日大社。御祭神の第一は武甕槌神(タケミカヅチ)。興福寺南円堂の不空羂索観音は春日明神の本地仏の一尊です。
“住吉の大明神”は、大阪市住吉区の住吉大社。主祭神に武甕槌神(タケミカヅチ)は入っていません。
“大原野の大明神”は、京都市西京区の大原野神社。御祭神の第一は武御賀豆智命(タケミカヅチ)。
“吉田の大明神”は、京都市左京区の吉田神社。御祭神は大原野神社と同じく武御賀豆智命(タケミカヅチ)。
処々に利益をたれ、一々に霊験をほどこしたまふ。本社・末社、利生みなめでたく、洛中・洛外、済度ことにすぐれたまへり。
小守の御前は、鹿嶋にては奥の御前とあらはれ、春日にては五所の宮としめしたまふ。
天照大神は日天子、観音の垂迹、素盞烏尊は月天子、勢至の垂迹なり。
この二菩薩は、弥陀如来の悲智の二門なれば、この両社もはら弥陀如来の分身なり。
この両社すでにしかなり。
以下の諸社、また弥陀の善巧方便にあらずといふことあるべからず。
ここで天照大神(アマテラス)を観音菩薩、素盞烏尊を勢至菩薩とし、阿弥陀如来の脇侍であると説いています。
※【本文】は、日本思想大系〈19〉中世神道論によりましたが、読みやすさを考慮し、カタカナをひらがなに改めました。
『諸神本懐集』5につづく