チベット ラサにて 2
十一月のラサは寒かった。 私は一ヶ月以上滞在していたので相部屋の値段で個室に泊めてもらっていた。 部屋はベッドのスペースをベニヤ板で区切ってあるだけだったが、瞑想するには個室であるだけありがたかった。 夜になると建て付けのわるい窓のすきまから液体窒素のような夜風が吹き込んでくる。 朝になると歩いて西蔵大学に通った。チベット語の講義が終わると、宿の前にある食堂で昼食をいただき、自習した。 宿に戻ると瞑想した。 毎日、同じことが繰り返されたが、その日はいつもとは違った。 門から出たその瞬間、目 ...
チベット カンリトゥカルにて
私は、法友と旅人と共に3人でバスを降りた。 ここは非解放地区なので公安に捕まると面倒だ。 私たちは早足で車道から離れ、岩石の転がる道を急いだ。 空気が薄いので、とても走ることはできない。 早歩きだけで、ぜいぜい、と息が切れる。 歩いても歩いても、ふもとのなだらかな道が続いてゆく。 聖山カンリトゥカルは、すぐ近くにあるように見えたが、近づいたら近づいただけ、遠ざかっていく。 私たちはふもとの住人と交渉してトラクターを出してもらった。 トラクターは、激しく振動しながら、岩石の上を進んでいく。 ...
チベット ラサにて 1
ラサは、チベット語で「神の地」という意味である。 この国の首都であり聖地である。人々は何ヶ月もかけてチベット中から巡礼にくる。 荒れた道を、尺取り虫の如く五体投地を繰り返しながらやってくる人たちもいる。 大昭寺の前に人だかりができていた。 その中心に骨と皮だけのひからびた腕を見せている巡礼者がいる。 肘の関節を紐できつく縛ったまま、東のカム地方からここまで五体投地を繰り返して来たのだという。 完全に壊死した右腕はすでにミイラ化している。 ラサに到着する前に乾燥して折れてしまわないようにバタ ...