インド ポンディシュリーにて 1

India

 ごつごつした大きな岩に波の塊が激しく砕け散った。岩はビクともしないが、波は繰り返しぶつかっていく。

 飛び散る波しぶきが、時折コーヒーカップの中にまで飛んでくる。

 カフェは、大きな黒い岩がごろごろと転がる波打ち際に一軒だけ、ぽつんと建っていた。

 海側には壁が無かった。

 粗末なイスとテーブルが並んでいる。

 トタン板のひさしがつくる影の中から、強烈な陽の光を浴びる外の世界を観る。

 光と影の強いコントラストが、映画のスクリーンを見ているかのようだ。

 陽の光は強いが、風が強いので暑くはなかった。

 雲一つない空。

 大きな波が砕けた。

 波の欠片が、またカップに入った。

「もっと後ろに下がれよ」

 振り返ると店のオヤジがあきれた顔をしていた。

 ソルトコーヒー。

 そう言うと、オヤジは首をかしげてみせた。

 首をかしげるという身振りは、インドでは肯定的な意味だ。

 波は荒れていたが海の色は美しかった。

 ただ、ひたすら海を眺めていた。

 波は繰り返しぶつかり、砕け散る。

 どのくらい眺めていたのだろうか。いつの間にか時間の感覚が抜けていた。

 気が付くと、ひさしよりも太陽が低くなり、真っ赤な太陽が顔を照らしていた。

 テーブルとカップの間に挟んだくしゃくしゃの札を指さしてみせると、オヤジは首をかしげた。

 私は立ち上がり、歩き出した。

 

こころを鍛えるインド (講談社ニューハードカバー)

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