ごつごつした大きな岩に波の塊が激しく砕け散った。岩はビクともしないが、波は繰り返しぶつかっていく。
飛び散る波しぶきが、時折コーヒーカップの中にまで飛んでくる。
カフェは、大きな黒い岩がごろごろと転がる波打ち際に一軒だけ、ぽつんと建っていた。
海側には壁が無かった。
粗末なイスとテーブルが並んでいる。
トタン板のひさしがつくる影の中から、強烈な陽の光を浴びる外の世界を観る。
光と影の強いコントラストが、映画のスクリーンを見ているかのようだ。
陽の光は強いが、風が強いので暑くはなかった。
雲一つない空。
大きな波が砕けた。
波の欠片が、またカップに入った。
「もっと後ろに下がれよ」
振り返ると店のオヤジがあきれた顔をしていた。
ソルトコーヒー。
そう言うと、オヤジは首をかしげてみせた。
首をかしげるという身振りは、インドでは肯定的な意味だ。
波は荒れていたが海の色は美しかった。
ただ、ひたすら海を眺めていた。
波は繰り返しぶつかり、砕け散る。
どのくらい眺めていたのだろうか。いつの間にか時間の感覚が抜けていた。
気が付くと、ひさしよりも太陽が低くなり、真っ赤な太陽が顔を照らしていた。
テーブルとカップの間に挟んだくしゃくしゃの札を指さしてみせると、オヤジは首をかしげた。
私は立ち上がり、歩き出した。