視界の隅に人影が映った。
振り返ると同時に、異形の男が飛びかかってきた。
見開いた眼球は、鮮やかな動脈血であふれている。眼球が血の色に腫れ上がり、今にもこぼれ落ちそうだ。
盲目の男は私の肩口にしがみついて、唾を飛ばしながら叫んでいる!
「バクシーシ!バクシーシ!」
彼の母らしき老婆が私に男を押しつけながら、泣きそうな顔で叫んでいる!
「バクシーシ!バクシーシ!」
これほど激しい乞食は初めてだった。
私はその男と共に押され、路地の壁に押しつけられた。
「バクシーシ!バクシーシ!」
男は母らしき老婆にけしかけられ、私にしがみついているのだ。
「バクシーシ!バクシーシ!」
見えもしない空を睨みつけながら。
「バクシーシ!バクシーシ!」
二人が絶叫している。
「バクシーシ!バクシーシ!」
わかった!金をやる。
二人はあっさり手を離した。
二人に十ルピー札を一枚ずつ渡した。
近くで見ていた乞食たちが一斉に駆け寄ってきた。
たかってくる乞食の頭越しに、二人が札を額にいただいてシヴァ神のマントラを唱えている。
乞食に喜捨しても少ないと文句を言われることが多いこの国において、神に感謝し真言を唱えるとは殊勝な人たちだ。