蜂が巣を作り始めた。
部屋の窓は開き窓になっており、木窓は外側に、網戸は内側に開くようになっていた。
その間に鉄格子があり、そこに蜂たちが巣を作っているのだった。
蜂の身体は細く、尻がとがっていた。
刺されると妙に痛かった。
蜂は本能により、私を刺した。
本能だから、仕方がなかったのだ。
巣は、日増しに大きくなっていく。
蜂の数が増え、度々、部屋の中に迷い込んできたが、蜂は攻撃的ではなかった。
壁にとまっている間にコップを被し、紙でふたをして外で放してやると、素直に巣に戻っていった。
私たちは互いに沈黙したまま、互いに相手の居ることを認めていた。
彼らは私とは違う生活様式と、意思疎通の方法と、意識を持っていたが、私たちはお互いに自分の価値観を相手に押しつけるようなことはしなかった。
私が巣に近づいても蜂たちは興奮しない。
巣を覗き込んでみる。
巣孔のいくつかには、薄い膜が張っていた。
新しい生命が中に宿っているのだろう。
巣は、日増しに大きくなっていく。
小さな孔が構成する大きな巣は、一つの曼荼羅だ。
私の部屋の木窓と網戸の隙間に、全宇宙の縮図がある。
そこには、ある種の秩序があった。
社会的地位が損なわれることや、罰金によって保たれているような秩序ではない、本当の秩序。
真実の調和。
いつしか私たちは、とても良い友達になっていた。
日常に起こる些細な出来事の中に顕れている至高の美しさに、私たちは気付くべきだ。
丘の上に太陽が触れ、強い西日が巣を真っ赤に染めた。
蜂たちは忙しげに働いている。
あの太陽が、丘の向こうへ隠れたときは、皆、もう眠る時間なのだ。