Tibet チベット ラサにて 1 ラサは、チベット語で「神の地」という意味である。 この国の首都であり聖地である。人々は何ヶ月もかけてチベット中から巡礼にくる。 荒れた道を、尺取り虫の如く五体投地を繰り返しながらやってくる人たちもいる。 大昭寺の前に人だかりができてい... 2019.04.27 Tibet遊行記
Sri Lanka スリランカ ポロンナルワにて ポロンナルワという小さな村で、トゥクトゥクの運転手に「サファリに行かないか」と誘われた。 スリランカのサファリは、日本のサファリパークとはちがい、本当に野生の動物たちが見られる。 行ってもよかったが、私には金銭的余裕がなかった。サファリ... 2019.04.26 Sri Lanka遊行記
Sri Lanka スリランカ スリーパーダへ お茶の新芽が、こんもりとした丘を鮮やかな色で覆っていた。 なだらかな稜線をやさしく撫でるように、おもちゃのような汽車に揺られてゆく。 列車は窓もドアも開けっ放しだった。若者たちが戸から外にぶら下がり、はしゃいでいる。 向かい合った席の... 2019.04.25 Sri Lanka遊行記
Sri Lanka スリランカ ダンブッラへ 私は、ダンブッラ行きのハイウェイバスに乗っていた。 ハイウェイバスとは名ばかりで、12人が乗り込んだ8人乗りのバンは公道ばかり走っていた。 スリランカにはハイウェイ(高速道路)が無いので、おかしいとは思っていたのだ。 ハイウェイバスは... 2019.04.24 Sri Lanka遊行記
Nepal ネパール ポカラからカトマンドゥへ 眼下には、雪をかぶったヒマラヤの山々がそびえていた。 雨期のポカラは灰色の雲に覆われ、ヒマラヤの山々が姿を見せてくれることはなかったが、雲の上に行けば、雨期だろうと関係なかった。 太古の昔から雪を被り続けている山々が、犯しがたい崇高さを... 2019.04.22 Nepal遊行記
Nepal ネパール ポカラへ 山々に囲まれた谷間の斜面に削り出された道路上で、バスは長い間、停まったままだった。 車内ではイスラエル人たちが、いつ走り出すのかと騒ぎ続けている。 一時間ほど待たされた後、乗客は全員、降ろされた。 預けていた自分の荷物を渡され、「歩け... 2019.04.21 Nepal遊行記
Nepal ネパール ダクシンカリにて その日は、谷底に祀られている女神に、生け贄が捧げられる日だった。 神の前にいる聖職者は、実に手際よく、生け贄をさばいていく。 施主から鶏を受け取ると同時に、頭をひねり首をねじ切る。頭を祠の上に投げ置き、胴体から噴き出す血を神像にかける。... 2019.04.20 Nepal遊行記
Nepal ネパール カトマンドゥにて2 カトマンドゥは喧噪と汚濁に満ち、いくつもの深刻な問題を抱えていた。 大気汚染もその一つだ。 カトマンドゥを走る車のほとんどが、インドから仕入れた中古車である。 インド国内を走る車もひどいが、さらにその中古である。そのうえネパールで売ら... 2019.04.19 Nepal遊行記
Nepal ネパール スンダリジャルにて 5 しとしと、という音の中で、目が覚めた。 雨の臭いがする。 目を開いても、闇の中にいることに変わりはなかった。 「夢」の修行をしているときは一晩で十回以上、夢を見る。夢が途切れるたびに目が覚めるので、行中は慢性的な寝不足である。 つい先... 2019.04.19 Nepal遊行記
Nepal ネパール スンダリジャルにて 4 蜂が巣を作り始めた。 部屋の窓は開き窓になっており、木窓は外側に、網戸は内側に開くようになっていた。 その間に鉄格子があり、そこに蜂たちが巣を作っているのだった。 蜂の身体は細く、尻がとがっていた。 刺されると妙に痛かった。 蜂は... 2019.04.18 Nepal遊行記
Nepal ネパール スンダリジャルにて 3 毎年、ホーリーの日が来ると、絞り出すような泣き声を聞く。 私は立ち上がり、屋上へ歩き出した。 ホーリーはヒンドゥー教の祭りで、この日は何をしても悪業を積まないのだとされている。だから、みんな滅茶苦茶するのだ。 太古の昔、神が定めたとさ... 2019.04.17 Nepal遊行記
Nepal ネパール スンダリジャルにて 2 戸口に立つと、血の臭いがした。 扉を開くと、戸口を塞ぐように、血まみれの自動車が停めてあった。つい先ほど人間をひき殺してきたかのような凄惨な状態だ。 向かいの家の前で、男が山羊を押さえつけている。 子供たちが見守る中、斧が振り下ろされ... 2019.04.16 Nepal遊行記
Nepal ネパール スンダリジャルにて 1 その日はなぜか騒がしかった。もしかしたら、何か意味のある日だったのかもしれない。 はす向かいの大家の部屋に、ネパール人が何人も集まって熱心に話し合っていた。 話し声は、私の部屋の中にまで響き渡った。 そんなことは滅多にあることではなか... 2019.04.15 Nepal遊行記
Thailand タイ パンガン島にて 3 ちくちくという痛みで、目が覚めた。 椰子の間から、真夏の太陽がひどく擦りむけた足を照りつけていた。 強い鎮痛剤で朦朧としたまま、しばらく傷を眺めていた。 すると、午前中の出来事が、うっすらと思い起こされてきた。 私たちは、パンガン島... 2019.04.14 Thailand遊行記
Thailand タイ ピサヌロークにて 私は髪の毛だけではなく、眉毛も剃り落としていた。 タイの僧侶は皆そうなのだ。 ミヤンマーと戦争を繰り返していた昔、信仰心厚い両国に、たびたび僧形のスパイが送り込まれてきた。 タイやミヤンマーなどの上座部仏教の国では、日本では考えられな... 2019.04.13 Thailand遊行記
Thailand タイ パンガン島にて 2 その日、私は完全な調和の中にあった。 私は全体であり、全体の中で歩いていた。 海沿いの強烈日射しが、焼けたアスファルトにくっきりと私の輪郭を照らし出している。 海面の小さな波の一つ一つが銀色に輝き、瞬間毎に生滅を繰り返していた。 そ... 2019.04.12 Thailand遊行記
Thailand タイ アユタヤにて 遠くでカエルが、大声で鳴いている。 耳元では蚊がうなっている。 私は、蒸し暑い蚊帳の中から這い出た。 友人は別の蚊帳の中でいびきをたてている。 この友人が田んぼの真ん中にあるこの実家へと招いてくれたのだった。 数十匹の蚊が私に吸い... 2019.04.11 Thailand遊行記
Thailand タイ パンガン島にて 1 あたたかい遠浅の海は、どこまで歩いて行っても、ひざより深くならず、やわらかい藻が足にからみついた。 「だから、人が来ないんだよ」 バンガローを経営しているおばさんが、砂浜から言った。 人が来なくて波の音がしない海は、瞑想修行に良い。 ... 2019.04.10 Thailand遊行記
Thailand タイ バンコクにて バスは、長い間、停まっていた。 南国の夜のなまぬるい空気が、開け放された窓からぬるりと侵入し、肌にまとわりつく。 乗客がまばらなバスの中にはタイの演歌が控えめな音で流れていた。 テープに合わせて陽気な運転手が、体をくねらせながら歌って... 2019.04.09 Thailand遊行記
Thailand タイ スコータイ マハタート寺にて その空間は微細な美に包まれていた。 太陽は圧倒的に光り輝き、蓮池に浮かぶ寺院は、そのままの姿を水面に落としていた。 蓮が乱れ咲く水面を境に、世界が上下に同じだけの広がりを持っている。 あめんぼが創り出す水紋が、世界はぶよぶよとした幻影であることを伝えていた。 タイ北部・スコータイにあるマハタート寺。 2019.04.08 Thailand遊行記