「『観音経』の三十三身とアヴァターラ」
で記したように、ヒンドゥー教では、
この宇宙は
ブラフマー(梵天)により創造され、
ビシュヌ(那羅延天)が維持し、
ビシュヌが維持しきれなくなった時
シヴァが破壊し尽くし、
再生すると説かれます。
これを時間に置き換えると、
ブラフマーは過去、
ビシュヌは現在、
シヴァは未来ということになります。
現代のインドでの信仰としては、
梵天は過去の神として敬われてはいるけど、
熱烈な信者はごく少数だそうです。
また、カーストの高い富裕層は
この秩序を維持し続けてほしいと
願うためビシュヌを信仰し、
カーストの低い貧困層は
早くこの世界を破壊し、
理想的な世界に作り直してほしい
ということで
シヴァを信仰している人が
多いと聞きました。
しかし、これは絶対的ではなく、
あくまでも、
そういう傾向があるということでしょう。
私がインドで旅してる間は
汚い服装で安宿に泊まり、
安い食堂か
屋台でしか食事しなかったので
富裕層の人と接する機会は
ほとんどありませんでした。
ですが、貧困層の方でも
ビシュヌを信仰している人も
結構いたように思います。
では、
これら三大神の中で最も根源的、
原初的な神は何でしょうか?
普通に考えると、
最初に万物を創造したブラフマー
となりそうですが、ちがいます。
ブラフマーはビシュヌのヘソから生えた
蓮の上に生まれました。
ヘソから蓮の花が生えて
そこに梵天が生じるという
何とも奇妙奇天烈な神話ですが、
仏教経典にもそっくりな話がでてきます。
『不空羂索神変真言経』に
観音菩薩のヘソから蓮の花が生えて
そこに梵天の姿をした観音菩薩が生じる
という、明らかにビシュヌ神話の影響下に
ある話が出てきます。
それどころか、
『仏説大乗荘厳宝王経』では、
観自在菩薩は
その両眼から日月を出だし、
額からは大自在天を、
肩からは梵王天を、
心[臓]からは那羅延天を、
牙からは大弁財天を、
腹からは地天を、
腹からは水天を出でだした……
と、
観音菩薩が、両目から太陽と月、
額からシヴァ、肩からブラフマー、
心臓からビシュヌと、
体中から神々を生み出した
と説かれています。
この記事の『不空羂索神変真言経』と
『仏説大乗荘厳宝王経』の話は
紹介されており、上記の
『仏説大乗荘厳宝王経』の現代語訳も
『観音変容譚』からの引用です。
中身がぎっしり詰まった良書で
この本も毎年のように読み返してます。