『大和葛城宝山記』解説2 読み下し文 タカミムスビ イザナギ イザナミ アマテラス ニニギ 一言主神

大和葛城宝山記

『大和葛城宝山記』解説1 のつづき

【読み下し文】極天の祖神
高皇産霊皇帝〈此れを上帝と名づく。
是の高皇産霊尊は、極天の祖皇帝に坐します也。
故に皇王の祖師也〉

『日本書紀』では“高皇産霊尊(タカミムスビのみこと)、高木神(タカギノカミ)”とも表記されます。
『古事記』では“高御産巣日神(タカミムスビのかみ)”です。
高木神という別名の通り、巨木を神聖視し、そこに神を感得したことから名づけられたと考えられています。
「産霊(むすひ)」は自然界における生産力や生成力です。
高皇産霊尊(タカミムスビ)の娘・栲幡千千姫命(タクハタチジヒメ)は、天照皇大神(アマテラス)の子・天忍穗耳尊(アメノオシホミミ)と結婚し、天孫・瓊瓊杵尊(ニニギ)を産みます。
ですから、皇室には高皇産霊尊(タカミムスビ)の血も流れています。

【読み下し文】大日本州造化の神
伊弉諾尊・伊弉冉尊〈此の二柱の尊は、第六天宮の主、大自在天王に坐します。
尓(そ)の時、皇天の宣(みこのとり)に任かせて天の瓊戈(あまのぬぼこ)を受け、咒術の力を以て山川草木を加持し、能く種々の未曾有の事を現(あら)はす。
往昔の大悲願の故に、而も日神・月神を作り、四天下を照らす。
昔、中天に於いて衆生を度し、今は日本の金剛山に在(いま)します〉

ここでは、まず、“伊弉諾尊(イザナギ)伊弉冉尊(イザナミ)”が“第六天宮の主”であり、“大自在天王”であると説かれています。
このことについて、通海『太神宮参詣記』に、
“第六天の魔王とは伊舎那天(いしゃなてん)の事也。
伊舎那(いしゃな)と申(もうす)は、即(すなわち)伊佐奈岐尊(イザナギのみこと)の御事也。
其読同(そのよみおなじ)き也。不可疑と申侍りき”とあります。
※『太神宮参詣記』の引用はカタカナをひらがなに改め、かっこ内の読み仮名を加えました。

伊弉諾尊(イザナギ)と第六天魔王と伊舎那天は、中世の神仏習合においては同体異名なのです。
織田信長が第六天魔王を自称し、神社仏閣を破壊したのも、この神話に基づいています。
信長の行為は決して、中世の日本人の神話観から逸脱するものではありません。
信仰が無いから破壊したのではなく、牛頭天王や第六天魔王に対する信仰と、自分自身を牛頭天王や第六天魔王の化身と見なすことによる行為なのです。
伊弉諾尊(イザナギ)と伊弉冉尊(イザナミ)は日本中に祀られていますが、ここでは金剛山(葛城山)におられると説かれています。

【読み下し文】地神六合ノ大宗
大日孁貴尊〈此を日神と名づくる也。
日は則ち大毘盧遮那如來、智慧月光の応変也。
梵音の毘盧遮那、是れ日の別名なり。
即ち暗を除き、遍く照らすの義也。
日とは天の号なり。
故に常住の日光と世間の日光と、法性の体に於いて相似たる義有り。
故に、大日孁貴を天照太神と名づくる也。
八尺流大鏡を以て伊勢太神の正体と秘崇するは是れ也。
豊葦原の瑞穂の中国の主上たり〉

“大日孁貴(オオヒルメのむちのみこと)を天照太神と名づくる也”とあるように、大日孁貴尊(オオヒルメ)は天照太神(アマテラス)の別名です。
大日孁貴尊(オオヒルメ)は大日如来と同体です。
※参考『二所大神宮麗気記』

【読み下し文】天津彦彦火瓊瓊杵尊〈神勅曰はく「天杵尊を以て中国(なかつくに)の主と為せ。玄龍の車、追の真床(おふのまとこ)の縁の錦の衾《今の世に小車の錦の衾と称するは是の縁也》
八尺流大鏡、赤玉の鈴、草薙剣を賜はりて寿(ことほ)ぎて之曰はく、「嗟乎、汝杵、敬(つつし)みて吾が寿ぐを承れ。
手に流鈴を把り、御無窮無念を以てせば、尓の祖吾、鏡中に在り」と宣(の)たまはく。
凡そ中ツ国の初(はじめ)、万の物を定むるに霊有る所の草樹を以て、言魔神と称して兢(つつし)み扇ぐ。
今杵を以て之に就くるの故に、名づけて皇孫杵独王と称ふ也。
今の世に曰ふ、伊勢の国山田原に坐します 止由気太神の相殿に坐します也」
大和國葛の上下(かみしも)に坐(いま)す神祇

記紀では、瓊瓊杵尊(ニニギ)は天照皇大神(アマテラス)の孫ですが、ここでは姉弟の関係になっています。

【読み下し文】諾冉二柱の尊
葛木二上尊、豊布都霊神〈亦(また)武雷尊と名づく。
是れ法起王なり。
亦熊野権現是れ也〉
大国魂尊。
国津神の大将軍に坐します也。

葛城二上尊とは、奈良県葛城市の二上山雄岳山頂付近にある葛木坐二上神社(かつらぎにいますふたかみのじんじゃ)とも呼ばれる葛木二上神社(かつらぎふたかみじんじゃ、かつらぎにじょうじんじゃ)の御祭神です。
御祭神は、豊布都霊神(トヨフツノミタマのかみ)と大国魂神(オオクニタマのかみ)です。
豊布都霊神(トヨフツノミタマ)は武雷神と同神とされ天津神の武神、大国魂神(オオクニタマ)は国津神の武神とされます。
『神社要録』には、“武甕槌命、大国主命”とあります。

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『大和葛城宝山記』解説3につづく

 

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