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『坐禅三昧経』4のつづき
或いは復た之れを問わん。
「三毒の中、何れの者、偏重せるや。
婬欲、多きや。
瞋恚、多きや。
愚痴、多きや。
云何(いかん)が相を観ずるや。
若し婬すること多き相ならば、為人(ひととなり)、軽便(きょうびん)にして、妻妾(さいしょう)を蓄(たくわ)うること多く、語ること多く、信ずること多く、顔色和悦にして、言語便易なり。
瞋恨(しんこん)少なく、亦た憂愁少なし。
技術を能くすること多く、聞くを好みて多識なり。
文頌(もんじゅ)に愛著(あいじゃく)して、談論を善能(よ)くし、能く人情を察して、諸もろの畏怖多し。
心に房室在りて、薄衣を好著し、女色(にょしょく)を渇欲し、臥具(がぐ)・服飾・香華(こうげ)に愛著す。
心に柔軟(にゅうなん)多く、能く憐愍有り。
言語に美(うる)わしく、好みて福業を修む。
意に生天を楽(ねが)い、衆に処りて難無し。
人の好醜を別(わ)かちて、婦女を信任し、欲火熾盛(しじょう)にして、心に悔変多し。
喜びて自ら荘飾し、綵画(さいが)を観るを好む。
己(おの)が物を慳惜(けんじゃく)して、他の財を僥倖(ぎょうこう)す。
友と結観するを好み、独処するを喜ばず。
止(とど)まるところに楽著して、流俗に随逐す。
乍(たちま)ち驚き、乍ち懼れ、志、彌候(みこう)の如く、見るところ浅近にして、事を作(な)さば、慮(おもんばか)り無し。
軽志にして、為(な)すところ、意に適(かな)うを得るに趣かば、喜びて啼(な)き、喜びて哭(な)く。
身体、細軟にして、寒苦に堪えず。
阻(くる)しみ易く、悦び易く、事を忍ぶ能わず。
少しく得れば大いに喜び、少しく失わば大いに憂(うれ)い、自ら伏匿せるを発(あば)く。
身、温かく、汗、臭く、薄膚・細髪にして、皺多く、白きこと多く、爪を剪(き)り、髭(ひげ)を治(ち)し、歯を白くす。
行に趣きて、潔浄の衣を喜ぶも、学、専一ならずして、林苑に遊ぶを好む。
多情にして求むること多く、意、常見に著す。
有徳(うとく)に附近して、意に先だちて問訊(もんじん)す。
他の語を用うるを喜び、顔を強(し)いて辱めに耐ゆ。
事を聞かば、速やかに解(げ)し、為すところの事業、好醜を分別して、苦厄を愍傷す。
自ら大いに勝を好みて、侵陵を受けず。
施恵を行ずるを喜びて、善人に接引す。
美(うる)わしき飲食を得れば、人に与えて之れを共にす。
近細を存せず、志、遠大に在り。
眼、色欲に著し、事、究竟せず。
遠く慮(おもんばか)ること有る無く、世の方俗を知りて、顔色を観察し、逆(さかし)まに人心を探る。
美言辯慧もて友と結ぶも固からず。
頭髪、稀疎にして、睡眠少なし。
坐臥行立(ざがぎょうりゅう)に容儀を失わず。
有(ゆう)するところの財物もて能く速やかに急を救うも、尋(つ)いで後ちに悔惜(けじゃく)す。
義を受けて疾(と)く得るも、尋いで復た喜びて忘る。
拳動を惜しみて、自ら改変し難(がた)し。
欲より離るること得(え)難きも、罪を作すこと軽微なり。
是くの如く種種なるは、是れ婬欲の相なり。
『坐禅三昧経』6につづく